つきすみわたる世

日々の記録

2024年3月に読んだ本

スザンヌ・フェイジェンス・クーパー著 安達まみ訳『エフィー・グレイ ラスキン・ミレイと生きた情熱の日々』

これはヴィクトリア朝期を生きた一人の女性の評伝です。彼女の人生は映画化もされているため、タイトルの名前を知っている方もいるでしょう。社交界にスキャンダルをもたらした彼女の人生を、変に誇張せず、書き残された膨大な記録から描いている点がとてもよかったです。

注目したいのは、エフィーやその娘たち、妹たちを通して見えてくる、当時の女性が置かれていた環境とその変化。女性史においてエフィーが果たした役割が、小さいながらも説得力を持って書かれていました。

2024年2月に読んだ本

マーシャ・ライス『ユリの文化誌』

エリザベス・ディケンソン『ベリーの文化誌』

筒井淳也『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』

これら三冊、読んだのがけっこう前で感想を忘れてしまいました。

ショーニン・マグワイア『不思議の国の少女たち』

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この一冊はかなり気に入りました。別世界へ行ってから現実へ帰ってきたものの、再び別世界へ帰りたいと望む少女少年たちの物語です。個性的なキャラクターが集まっていて、シリーズすべて読みたくなるお話でした。

海野弘『366日 絵のなかの部屋をめぐる旅』

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室内画好きにはもってこいの画集です。以前展覧会に行って以来、ハマスホイの絵が好きになりました。カール・ラーションの作風も好みです。

カレン・M・マクマナス『誰かが嘘をついている

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タイトルだけだとサスペンスっぽいですが、青春群像劇といったほうが合っている気がします。ある事件の容疑者となった四人の高校生が、事件の真相を探りながら成長する物語。ドラマや映画映えする話でした。

ケイト・ミルフォード『雪の夜は小さなホテルで謎解きを』

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クリスマスシーズンに、温かいチョコレートやココアを飲みながら読みたい一冊。凄惨な事件は起きないので、ファンタジー要素のある優しいミステリがいい!というときにぴったりでした。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』を観た

映画館にて、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』を観てきました。前作はYouTubeの総集編でざっと確認したのみです。以前観た『閃光のハサウェイ』でバトルシーンの迫力が気に入ったので、今回も。

寝不足と疲労のせいで、前半はあまり集中できませんでした。ですが敵の狙いが明らかになり反撃の態勢が整ってからはぐっと引き込まれ、宇宙での戦闘に魅了されました。人間の生きる価値を問うメッセージも心に残るものです。

個人的には、デスティニー・プランが実行された世界では生きたくないです。自分の遺伝子の情報には興味があるし得意不得意がはっきりしたら役立てられそうだけれど、生き方がそこに縛りつけられては窮屈だから。あるべき姿を定められて生まれてきた存在だからこそ、デスティニー・プランに理想を見出すのかもしれません。

面白い映画でしたが、カップルできすぎ…とは思いました。でもガンダムシリーズを貫く大きな軸のひとつに愛があるようだからしかたないのかな。

このブログのこれから

久しぶりの更新です。SNSに疲れてきたので、ブログ中心にしていこうかなと思います。

今までいちばん使っていたのはTwitterですが、Xになってから肌に合わず。

Instagramもやっているけれど、足りないところが少々。

いろんなアプリが出ていますが、どれが自分に合うか試すのも億劫です。シンプルなTwitterが帰ってくればいいのですが、それも遠そうなので、ブログに戻ってきました。

本のことはもちろん、日常の他のことも書いていくつもりです。

なのでさっそく今日のことを。

晴れた日だったので食べ歩きをしてきました。

気づけば甘いものばかり。全部美味しかったです。もっと食べたいものがあるのでまた行きます。

夕方から夜は映画館へ。観賞した作品については別の記事で書こうと思います。これがまた面白く、充実した一日になりました。

夜ご飯は知っているお店で食べました。美味しいことでしっかり覚えているところです。総じてご飯に恵まれた土曜日でした。

2023年4月に読んだ本

ケネス・モリス『ダフォディルの花 ケネス・モリス幻想小説集』

 

まるで美しい音楽をそのまま文章にしたような、読みながらうっとりしてしまう不思議な本でした。題材は洋の東西を問わず取られており、おとぎ話でお馴染みの妖精の物語や桃源郷を見つける話などは、読んでいると童心に帰ったかのよう。モリスは神智学者でもあったようですが、それらしい魂の成長をテーマにした話が多かったと思います。

森や谷、湖など自然の描写がずば抜けて美しいのも見どころです。

 

Catherine McCormack『名画を見上げる 美しき天井画・天井装飾の世界』

 

天井画といえば、ミケランジェロが手がけたシスティーナ礼拝堂の「最後の審判」がすぐに思い浮かびます。本書では、見上げることによって鑑賞できる名画・名装飾の数々を紹介。神の世界を表現するために、自らを神格化するために、理念や理想を表すために……様々な目的で作られた芸術であっても、図版だけではっとするほどの華麗さを持っているのはすべてに共通していました。

 

井上寿一『理想だらけの戦時下日本』

 

戦争の勝利のために、全国民の心をひとつにすべく計画された国民精神総動員運動。様々な理想が掲げられたものの、国民の反応は? そこから見えてくる、現代社会が目指すべき形とは?

10年前に書かれた本ではありますが、筆者による結論は今も重要かつまだまだ改善の余地のあるものでした。また、「ぜいたくは敵だ!」など、有名なフレーズのもと画一的なイメージしかなかった戦時下の様子を詳しく知ることもできました。歴史についてはつい外国のものばかり読んでしまいがちですが、自国のことについても知識を深めたいと思います。

 

南川高志・井上文則 編『生き方と感情の歴史学 古代ギリシア・ローマ世界の深層を求めて』

 

彼らが感じた恥について、商人の生き方について、友情の語り方について。時も場所も大きく隔たった古代ローマ古代ギリシアの人々が身近に思えてくる論集でした。

 

井辻朱美『パルメランの夢』

 

想像力を刺激する、美しいファンタジーのオムニバスでした。幻想的な遊園地と鉱物、鱗に覆われた竜と猫の巡礼者たちなど魅力的なイメージでいっぱいの本です。子供のころに読んでいたらどれだけ影響されていたか分かりません。古本屋さんで探してみようと思います。

 

中野美代子契丹伝奇集』

 

翻訳や評論なども手がけているらしい方の短編集でした。異国情緒あふれる舞台設定、過去と現代を行き来する不思議さ、美しい茶器をめぐる陰謀など、『曜変』は特に読んでいて楽しかったです。

 

山尾悠子『増補 夢の遠近法 初期作品選』

 

圧倒的な筆力と語彙で、不可思議な世界に実在感を与えてしまう。この作者は、そんなことができる稀有な作家です。ありえない世界に説得力を持たせるためにはこれだけの文章が書けなければいけないのか……と自分の力不足を痛感させられもしましたが、楽しさと同時に学びも得られた読書でした。

この方の本は引き続き読んでいくつもりです。

2023年3月に読んだ本

持田叙子『泉鏡花 百合と宝珠の文学史

 

作品に登場する指環から、果物から、花々から。独特の視点で捉えた女性同士の関係性や実はそこここにあふれるキリスト教の素養も。思いも寄らない視点から鏡花の作品を分析した論の数々は、今まで知らなかった鏡花の側面をたくさん教えてくれました。特に、現代ではいわゆる「百合」と呼ばれるような官能的なまでの女性同士の絡みを鏡花が描いていたのは驚きです。幼いときの思い出から、キリスト教的なエッセンスが作中に散りばめられているというのも新たな発見でした。すでに何度も読んだ作品であっても再び読み返したくなります。

 

近藤史恵『みかんとひよどり』

 

お話の主軸であるジビエ料理がなんとも美味しそう。夢を諦めなければならないときを覚悟しつつ、自分なりのやり方を模索する主人公のことはつい応援したくなります。そしてメインキャラの二人がそれぞれ飼っている犬たちがとても生き生きとしていました。作者さんはきっと愛犬家です。

嬉しかったのは、働くときもノーメイクで過ごし盗撮画像を集めたウェブサイトなどを通報することが趣味という女性キャラ、バイセクシュアルかつポリアモリーで今は三人の恋人がいるという女性キャラが登場したことです。こう書くといろんな要素がお話にてんこ盛りなようですが、物語の中心はあくまでも雇われシェフと猟師、そしてジビエ。ただ、少数派の人たちがさらっと出てきたところに作者の温かい眼差しを感じたのでした。

 

ダリア・セレンコ『女の子たちと公的機関 ロシアのフェミニストが目覚めるとき』

 

作者はロシア出身の詩人。彼女はまたフェミニストであり、反戦活動家でもあります。そのような人物が、国家による暴力や不正に振り回される若い女性たちの姿を実体験を織り交ぜながら書いた文章は一読に値しました。

 

ビクトリア・シェパード『妄想の世界史 10の奇想天外な話』

 

(前略)妄想とは、人々に自分をどう見てほしいか、どう扱ってほしいかを代弁しているからである。

 

この本は、単に歴史上のおかしな話を集めただけのものではありませんでした。現実と異なる誤った思い込み、妄想というのはどこから生まれてくるのか? それが意味しているものは何なのか? このような、私たちが妄想から読み取るべきものを丁寧に考察していく本です。終章まで読めば、史実の妄想が現代の人々や社会にも通ずるものを持っていることが納得できます。

 

トーベ・ヤンソン『メッセージ トーベ・ヤンソン自選短篇集』

 

今までにトーベの短編集は二冊読んできました。その中で特に好きなのは『旅のスケッチ』所収の「ヴァイオリン」でしたが、本書を読んでお気に入りがさらに増えることに。カップルや親子、孤独な人を描くことで他人との関係性を浮き立たせるストーリーが多いほか、生まれ育ったフィンランドの四季や人気芸術家としての経験を織り込んだ話もあったのが面白かったです。

 

河上睦子『「人間とは食べるところのものである」ー「食の哲学」構想ー』

私たちの生活の基盤である「食」。新自由主義的・資本経済主義的でありまたコロナ禍が続いてもいる現代において、それが持つ意味とはいったいなんなのか? 19世紀の哲学者フォイエルバッハの言葉を鍵に考察していく本です。前半ではフォイエルバッハの思想を読み解き、後半では現代日本の持つ食の問題について哲学的に考えます。

問題について考えるといっても、その場ですぐに答えは出ません。ただ、フォイエルバッハにしても食という分野そのものにしても、改めて見つめ直すべき点が明示されたことに意味があると感じます。2023年を生きる私たちにとって、食とは果たしてなんでしょうか?

 

アンヌ・ダヴィス/ベルトラン・メヤ=スタブレ『フランス香水伝説物語 文化、歴史からファッションまで』

 

シャネル、ディオールジバンシーエルメスにサン=ローラン。目次に並ぶあまりにも有名な名前はすべて、伝説的な香水を世に送り出した人々のものです。この本は、選ばれた15の香水についてその誕生を語っています。

クチュリエールやクチュリエが香水の香り自体にこだわりを持つのは当然のことで、驚くのはいかにそれを商品として魅力的にするかという点。本の最初には、香水が売り出された当時のボトルや広告の写真資料が載っていますが、その壮麗さには目を奪われました。ボトルのコレクターがいるというのにも納得です(私はエルメス「カレーシュ」のボトルが特に好き)。ボトルとその包装、宣伝用のポスターに映像…いかに多様な創造性が香水の価値を高めているかが分かります。名だたる俳優やモデル、さらには王侯貴族まで、次々に紹介される香水の愛好者たちも錚々たる顔ぶれ。

華やかなファッションの空気を吸える、贅沢な読書体験となりました。

 

平野千果子『人種主義の歴史』

 

欧米ではアジア人として差別されるけれど、自国では近隣の国を差別する側になる。日本人の例をとっても、人種主義とそれに基づく差別の複雑性が垣間見えます。そもそも「人種」とは何か、フランス植民地史を専門とする筆者の文を追いかけていくと、それがいかに奥深いかがよく分かりました。

恐ろしかったのは、未踏の地を訪れた者がその地に住む人々を最初から自分たちに従属するものとして見ていた事実、学問が人種と人種で決まる優劣の存在の証明に利用されたことです。研究結果が偏見に沿わないものであった場合、数値を操作したという事例も紹介されていました。

けれども何より恐ろしいのは、人種主義と差別が再生産されていること。今では信じられないような歴史上の思想が、形を変えて私たちの感覚にしみこんでいることに注意が必要です。

 

セリア・リッテルトン『パルファム紀行 香りの源泉を求めて』

 

作るのは、セリア・リッテルトンという一人の人間を表すただひとつの香水。自分のための香水が、どんな原料で、どのように作られるかを見届けようと、筆者は二年間の旅に出ます。

感受性が強ければ強いほど、この本を読むとくらくらしてくるのではないでしょうか。そう思うほど、香りの描写も訪れた地とそこで出会う人々の描写も生き生きとしています。香料の歴史も語られるので、この本は時間も場所も超えた壮大な旅行記だといえます。思った以上にスケールの大きな一冊でした。

2023年2月に読んだ本

スティーヴン・ミルハウザー『バーナム博物館』

 

いちばん好きなのは、映画館に迷い込んで目にした光景が語られる『青いカーテンの向こうで』でしょうか。激しい雨の描写が冴える『雨』もお気に入りです。読み応えのある一冊でした。

 

豊田園子『女性なるものをめぐって 深層心理学と女性のこころ』

 

女性が自分らしく、創造性を発揮して生きるためには何が必要か。この本はその問いかけから始まります。問題は長らく続く男性中心の社会によって、女性の本来持っていた大切なちからや知恵が無視されてきてしまい、女性たち自身が本質を見失ってしまっていること。筆者はその取り戻すべきものを「女性的なスピリチュアリティ」と名付け、ユング心理学の観点から、その重要性や取り戻し方について語ります。

心理学のことをよく知らない私としては、スピリチュアリティという言葉への馴染みのなさや超越的なちからや知恵を女性的なものと男性的なものに分けることへの違和感のせいで、初めはうまく呑み込めませんでした。ですがこの本が筆者自身の実感や心理分析に訪れた女性たちの経験に根差して書かれたことが分かると、他でもない私のためにもなる本だと思わせられました。性別と自分らしさで悩むことのある人にはぜひ読んでもらいたい本です。

 

中川成美・村田裕和[編]『革命芸術プロレタリア文化運動』

 

よく知らない分野であっても論文を読むというのは楽しいですね。

 

オルナ・ドーナト『母親になって後悔してる』

 

著者のインタビューに応えた女性たちが母になった理由からは、「女性は母になるもの」という社会通念が彼女たちに刷り込まれていたことが窺えました。国は違えど状況は同じなようです。「子供はほしくない」と言ったら「そのうちほしくなるよ」と言われたこと、将来の計画に出産を含めなかったら「子供を持つのはいつ?」と尋ねられたことを思い出します。

本書のタイトルを過激だ、ショッキングだというコメントがネット上で散見され、内容を読まないままに批判的な目を向けているのではと思える反応もありました。それだけで、「母親になって後悔してる」という気持ちが表に出にくいかが分かります。そして、母親という役割に期待されているものの圧の強さも。

 

伊藤博明『ルネサンスの神秘思想』

 

また自分の理解を超える本を読んでしまいました。人物の名前がたくさん出てきてやや混乱したのも一因です。特に占星術の説明は読んでもちんぷんかんぷんでした。