つきすみわたる世

日々の記録

2023年4月に読んだ本

ケネス・モリス『ダフォディルの花 ケネス・モリス幻想小説集』

 

まるで美しい音楽をそのまま文章にしたような、読みながらうっとりしてしまう不思議な本でした。題材は洋の東西を問わず取られており、おとぎ話でお馴染みの妖精の物語や桃源郷を見つける話などは、読んでいると童心に帰ったかのよう。モリスは神智学者でもあったようですが、それらしい魂の成長をテーマにした話が多かったと思います。

森や谷、湖など自然の描写がずば抜けて美しいのも見どころです。

 

Catherine McCormack『名画を見上げる 美しき天井画・天井装飾の世界』

 

天井画といえば、ミケランジェロが手がけたシスティーナ礼拝堂の「最後の審判」がすぐに思い浮かびます。本書では、見上げることによって鑑賞できる名画・名装飾の数々を紹介。神の世界を表現するために、自らを神格化するために、理念や理想を表すために……様々な目的で作られた芸術であっても、図版だけではっとするほどの華麗さを持っているのはすべてに共通していました。

 

井上寿一『理想だらけの戦時下日本』

 

戦争の勝利のために、全国民の心をひとつにすべく計画された国民精神総動員運動。様々な理想が掲げられたものの、国民の反応は? そこから見えてくる、現代社会が目指すべき形とは?

10年前に書かれた本ではありますが、筆者による結論は今も重要かつまだまだ改善の余地のあるものでした。また、「ぜいたくは敵だ!」など、有名なフレーズのもと画一的なイメージしかなかった戦時下の様子を詳しく知ることもできました。歴史についてはつい外国のものばかり読んでしまいがちですが、自国のことについても知識を深めたいと思います。

 

南川高志・井上文則 編『生き方と感情の歴史学 古代ギリシア・ローマ世界の深層を求めて』

 

彼らが感じた恥について、商人の生き方について、友情の語り方について。時も場所も大きく隔たった古代ローマ古代ギリシアの人々が身近に思えてくる論集でした。

 

井辻朱美『パルメランの夢』

 

想像力を刺激する、美しいファンタジーのオムニバスでした。幻想的な遊園地と鉱物、鱗に覆われた竜と猫の巡礼者たちなど魅力的なイメージでいっぱいの本です。子供のころに読んでいたらどれだけ影響されていたか分かりません。古本屋さんで探してみようと思います。

 

中野美代子契丹伝奇集』

 

翻訳や評論なども手がけているらしい方の短編集でした。異国情緒あふれる舞台設定、過去と現代を行き来する不思議さ、美しい茶器をめぐる陰謀など、『曜変』は特に読んでいて楽しかったです。

 

山尾悠子『増補 夢の遠近法 初期作品選』

 

圧倒的な筆力と語彙で、不可思議な世界に実在感を与えてしまう。この作者は、そんなことができる稀有な作家です。ありえない世界に説得力を持たせるためにはこれだけの文章が書けなければいけないのか……と自分の力不足を痛感させられもしましたが、楽しさと同時に学びも得られた読書でした。

この方の本は引き続き読んでいくつもりです。